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消化器外科における経腸栄養の意義と役割という特集が今回のテーマである.外科,特に消化器外科における栄養管理の進歩は,これまで外科治療成績の向上に,特に術後合併症を軽減するための方策として大きな貢献をしてきた.私が医学部を卒業して間もない頃,中心静脈栄養法が欧米からわが国にも導入されてこれまでの一般輸液のみの術後管理が一変し,実地臨床にきわめて大きなインパクトを与えたものである.当時,この新たに導入された中心静脈栄養について活発に多くの研究がなされ,ますますの発展がみられた.その後,中心静脈栄養法による多くの臨床経験を踏まえてその問題点も明らかにされ,経腸栄養法が主流となってきた.もちろん,現在のように経腸栄養が国際的にも主流の時代にあっても,症例によっては中心静脈栄養法に頼らざるを得ないときもありその意義が失われたわけではないが,外科栄養の研究・進歩の中心が明らかに経腸栄養に移ってきているのは間違いない.
このように私が医学部を卒業して間もない時代,わずか30年で臨床医学も大きく変動し進歩しているわけである.このことから,今現在ある教科書はもちろん,様々なガイドラインにおいて書かれている内容の多くが10年単位のレベルで変わっていくであろうことは容易に予想がつくことである.日々行われる今現在の最新(?)医療と思われている内容の問題点,限界などを常に意識してこそ新たな医療の開発に向けた医学研究の必要性の高さや意義が理解できる.若い外科医も自らがこのような臨床医学の進歩を支えているということを常に十分に意識して自らの臨床外科研修を行い,scientific mindを持ち続けて勉強をしていってほしいものである.すなわち単に知識を増やすだけでなく,今学んでいる最新医療の限界,問題点を認識し,研究心を持って創造的な姿勢で日々の研修を行い,目の前の患者さんのみでなく,さらに多くのこれからの患者さんのためにも貢献してもらいたい.今は若い医師でも,これから20年後,30年後にも今教わっている医療の常識のままに臨床を続けていては,そのときにはすでに「旧い臨床医」となってしまうことを忘れないでいて欲しいのである.
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