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昨年から「臨床外科」の編集委員を担当させてもらい,早くも3度目の『あとがき』です.現在の大学での診療と違い,久しぶりに若い外科医になりたての頃のように外科一般の様々な外科疾患を論文を通じて改めて経験でき,大変新鮮な気持ちを感じるものです.最近の外科学は私が大学を卒業した頃と比較して目覚ましい発展とともに細分化がなされてきています.このような外科学の細分化は学問の進歩・発展において必然的な当然の結果であるとは思われます.臨床医として診療を行う際には分化・専門化した高度な知識や技術は多くの患者さん方に恩恵をもたらしていることは異論のないところですが,しかしながら,ときに全般的な,特に専門外における臨床医として患者さんを診るうえでの基本的な知識や技術が欠如していると,きわめて大きな見落としやら誤った方向での診療行為を行ってしまうこともあるわけであり,このことは患者さん側からみると専門医ならびに医療そのものへの信頼を大きく裏切る結果となってしまい,臨床医としてはきわめて注意を要することと考えています.
私自身,日頃の教授回診や症例カンファレンスにおいてこのことをつねに意識して,教室員と医学生に対して臨床医としての姿勢を学んでもらうようにしています.もちろん,このような臨床医を育成していくためには,外科医になりたての時期から患者さんを診るうえで,いかに全身を診れる知識・技術が専門医となったうえでも重要なことであるかを実際の症例においてつねに問題呈示して示していくしかないと思われます.基礎医学の重要性を再認識し,専門以外の領域の臨床的な知識・技術をしっかりと学びながら専門医としての修練を積んでいくことを決して忘れてはならないのは,臨床医としての最も重要な姿勢でしょう.科学的に臨床事象を考えていくことなしに診療を行うくらい臨床医としての仕事をつまらなくするものはなく,かつまた患者さんに対して真に優しい質の高い医療を提供することはできません.さらに,臨床外科学そのものの進歩をきたさない結果にもなるでしょう.そのように根幹的かつ科学的な姿勢を臨床外科医が生涯,維持し続けることがきわめて大変なエネルギーを要求するものであることは,そうした価値観で臨床外科医を長く続けてきたものであれば,もちろん容易に想像できます.
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