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肛門部は消化管の出口であり,内胚葉と外胚葉の接合部(歯状線:dentate line)があり,内・外肛門括約筋機能を有している複雑な形態を呈している.したがって,この歯状線から直腸側は自律神経系,門脈系,臓側リンパ系に支配され,一方,歯状線から肛門側は体性神経系,大静脈系,体壁リンパ系に支配されるという特徴を持っている.肛門管(anal canal)には解剖学的肛門管と外科的肛門管があり,前者は肛門縁(anal verge)から歯状線までと定義され,後者は肛門縁から恥骨直腸筋付着部上縁までの管状部を指している.そして,肛門とは狭義には肛門縁を指し,広義には外科的肛門管を指している.この外科的肛門管は2.5~3.5cmの長さがあり,普段は内肛門括約筋や外肛門括約筋,恥骨直腸筋によって絞められて閉じており,漏便・漏ガスはない.
一方,肛門の生理機能は意識的排便機能に集約される.排便は種々の反射機構と大脳による随意的要素によって複雑に制御されている.便塊やガスが直腸に達し,直腸が伸展されると反射的に内肛門括約筋は弛緩するが,ほぼ同時に起こる随意の外肛門括約筋の収縮によって漏便・漏ガスは意識的に防止される.排便しようとしてしゃがむことよって肛門直腸角(anorectal angle:肛門管と直腸との軸の角度)は拡大し,腹圧(いきみ)をかけると骨盤底筋群が弛緩して下降し,この角度はさらに拡大して直腸と肛門管が直線化する.さらに腹圧をかけたり,直腸の収縮によって直腸内圧が50mmHg以上に高まると,反射的に肛門括約筋が弛緩して糞便やガスが排泄される.排便が終了すると骨盤底は元の位置に戻り,内肛門括約筋が再び収縮して肛門管は閉鎖する.直腸や肛門管の炎症や腫瘍などの刺激によって裏急後重(いわゆる「渋り腹」:tenesmus)をきたすことになる.
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