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近年の分子生物学の目覚しい発展は,医学の分野に飛躍的進歩と莫大なる成果をもたらし,また今後もさらに多くの知見をもたらすことは言うまでもありません.「物質は原子からできている」という20世紀の科学の成果(ファインマン)に象徴される視点に立脚した考え方,すなわち対象を要素の性質に還元して理解しようとする「要素還元主義」が広く科学の中心に位置し,自然を理解するのに非常に有効で切れ味の鋭いこの方法論は,21世紀の今後もその座は不動のものであり続けるでしょう.しかし一方で,これらの多くの要素が集合して1つの系を作ると,個々の要素には存在していない新しい性質が出てくることもまた事実であり,生命システムの多様な複雑性と,それらによりもたらされる多様性と多義性がそこに存在します.このことは「ミクロ」な視点からのみならず,「マクロ」な視点,すなわち「グローバリズム」という立場からの観察の重要性をも示唆するものでしょう.すなわち,「木を見て,森を見ず」ではなく「木を見て,また森も見る」ということにも言い換えられると思われます.
医学に話を戻すと,近年の高齢社会,社会環境の変化に伴うさまざまなストレスの増大,そしてこれらからもたらされる疾病構造の変化と多様化のなかで,「要素還元主義」的に疾患単位で,もしくは病因単位で患者さんを診ることにとどまらず,「グローバリズム」という視点から個体全体を診て,さらにquality of life(QOL)も重視する,いわゆる「全人的医療」の両面からのアプローチが必須となったことは明らかです.そのような観点から,長い歴史を有する漢方医学の意義は,今日的にもさらに重みを増してきたものと思われ,このことは外科の,特に消化器外科領域においても例外ではなく,ここに「消化器外科と漢方」という特集を企画させていただいた次第です.
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