外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・36
開腹手術で腹腔内の検索は必要か
松股 孝
1
Takashi MATSUMATA
1
1中津市民病院外科
pp.1648-1649
発行日 2006年12月20日
Published Date 2006/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407101664
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【研修医の頃】
筆者が1年次の研修を受けた病院には3人の部長がいた.当時,50歳代半ばの外科医であった.とにかく手術が速くて,研修医は糸結びをするのに精一杯で,手術の内容はあまり覚えていない,そのような部長がいた.また,手術は速いと思えないが,粛々と手術が進行し,結局手術が速い部長がいた.あと1人の部長はとにかくスタッフに怖がられていた.S状結腸癌の手術に入ったとき,開腹後に肝臓に手をあてた.「肝臓に転移がある,これはダメだ」と宣言し,手術はそこで終了になった.転移巣の直径は3cmはあったが,5cmはなかったと記憶している.この出来事がトラウマになったのだろうか,開腹手術では腹腔内の検索をあまりしない外科医になった.
彼らよりひとまわり上の院長が,定年退職の半年前にVIPの手術の執刀者になられた.「九州に○○あり」という伝説の手術の名手である.ところが術後にトラブルが重なり,回復に半年近くを要した.「毎日,手術をしている人が外科医である」とそのとき思った.大型肝癌の切除を一気呵成に行っていたのはついこの前のような気がするが,いまではとてもできないだろう.自戒すべし.
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