外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・34
開腹に正中切開は必要か
松股 孝
1
Takashi MATSUMATA
1
1中津市民病院外科
pp.1364-1365
発行日 2006年10月20日
Published Date 2006/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407100980
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【知ったかぶりの横切開】
その昔,アメリカ帰りの先輩が「女性はビキニがはけるようにしてやらなければダメ」と教えてくれた.大先輩のいる出張先の病院で,12歳の女の子の急性虫垂炎症例にbikini incisionといわれるファンネンスティール切開を行って苦労した.アッペが遠すぎた.知ったかぶりをする外科医は恐ろしい.その後,アッペの切開で苦労したことはないが,麻酔で苦労した.腰椎麻酔で何人苦しめたことか.患者の苦しみが術者に伝わり,焦燥感に襲われる.腰椎麻酔はよくない.
いま,年間手術症例が1,000例に満たない地域中核病院に2名の麻酔科常勤医がいる.アッペの麻酔は必ず全身麻酔である.カタラーリスなどを切ることはまずないので,外科医も発想を変える必要がある.盲腸周囲膿瘍まで起こしていても経過観察すれば1週間程度で治癒するので,症状の安定している患者にあえて開腹する必要はないが,炎症の強い虫垂炎は大腸癌よりも手術が難しいのだから,「アッペは腰椎麻酔」という発想は変えたほうがよい.
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