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【はじめに】
消化器外科医にとって,縫合不全はなんとしても避けたい合併症の1つであり,状態によっては緊急手術などの侵襲的な治療を要することもある.そのため,周術期管理に関する書物を紐解くと,胃全摘術後の経口摂取前に行う吻合部造影がルーチン検査として記載されていることが多く1),筆者らも諸先輩から必須の検査として教わってきた.
縫合不全の発生率は7.2~12.3%と報告されている2,3).胃全摘術後の縫合不全発生の要因としては,食道の漿膜を欠如するという解剖学的な要素,吻合部の血流の問題,吻合における手術手技がそれほど容易ではないことなどが挙げられる.また,縫合不全を起こすと腹腔内膿瘍のみならず,吻合部が後縦隔に近く位置するということから縦隔への感染の広がりを伴った場合は重篤になる危険性があると考えられる4).しかし,最近は各種の医療器具の開発とその精度の向上に伴い,そのような合併症の発生は比較的稀であり,臨床所見に異常がなければ造影検査を行わない場合もある.一方,水溶性造影剤(ガストログラフィン)による下痢の誘発や,これを誤嚥した際の肺水腫,急性肺障害の危険性も報告されている5,6).
吻合部造影の意義については,縫合不全の有無を確認するのみならず,術後再建臓器の消化管蠕動を評価するという意味合いもある.しかし,胃全摘術後の縫合不全に重点を置き,これを評価すべく吻合部造影をルーチンに行うことにどれほど臨床的有用性があるのだろうか.本稿では,当院における胃全摘術後の経口摂取再開前に行われている吻合部造影の臨床的有用性をレトロスペクティブに検討し,これに文献的考察を加え,臨床医の立場から筆者らの意見を述べたい.
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