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今や医学領域における研究業績には目覚ましいものがあり,神経学領域も加速度的に進展している。本誌には素晴しい論文が多数投稿され,掲載されているが,本号には原著論文の他に,特集として"新しい末梢神経伝導速度測定法の試み"がとり挙げられている。
さて,末梢神経障害は,筋萎縮性側索硬化症とか脳卒中のように予後が悪い疾患ではないが,神経疾患の中では出現頻度が多い疾患である。その診断,治療のため日常的検査法として,末梢神経伝導速度測定法がとり挙げられているが,本法が開発されたのは戦後間もない昭和40年前のことである。当時は,筋活動電位がmVオーダと高電位であるため,真空管増幅器を用いて運動神経伝導速度を測定することが容易であったが,感覚神経そのものの活動電位はμVオーダと極めて微小なため,それを増幅,記録することが難しく,感覚神経伝導速度を測定することは容易ではなかった。しかしその後,先端技術の発展に伴いコンピュータが開発され,加算することが可能となったため,今や感覚神経伝導速度も日常茶飯事に測定されている。しかし,現在日常検査で測定し得る運動,感覚神経の伝導速度は最大のみである。末梢神経に超最大電気刺激を与えれば,全神経線維が興奮するので,活動電位の起点(onset)から潜時を測り最大速度を算出することは容易であるが,その記録だけから,各線維の伝導速度を測定することは不可能である。しかし,最大だけでなく,その他の神経線維の伝導速度をも測定することが可能ならば,神経線維の病態をより詳細に知ることができ,診断,治療上大いに役立つことが期待できる。神経線維の病態を調べるその他の方法としては,神経生検による病理学的検索法があるが,腓腹神経以外の神経をも生検することは,感覚だけでなく運動機能にも後遺症を残すので,臨床上好ましくないことである。かかる観点から,できるだけ多くの神経線維の伝導速度を測定することが臨床上是非必要であるが,ヒトについて初めて開発されたのは,約25年前に発表されたHopfの方法である。しかし,その後コンピュータの発展に伴い種々試みがなされている。
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