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この度,NIM Fundamentalsの"神経"が出版された。この本は私共が編集したNIM Lecturesの"神経病学"の基礎編に相当するものと思われる。神経病学の理解に神経系に関する基礎的知識が重要なことはいうまでもなく,NIMの"神経病学"においても,その半分を「神経系の解剖と機能」「神経病の主要症状の病態」の説明にあててある。NIMの"神経"は,神経系の基礎的知識をさらに広汎にとりあげ,しかも最新の知識を盛り込んで解説したもので,基礎編としてまことに素晴らしいものである。現在,医学生に対する神経系の基礎知識の教育は大学によりまちまちであろうが,基礎医学の各分野で分散して行われている場合が多い。私共の北里大学では基礎医学として器官系別総合教育を行なっており,その一環として"神経系"をとりあげている。これは神経系に関する解剖学,生理学,生化学,薬理学,病理学の82単位(1単位は1時間半)の講義と実習を,ある期間に集中して行なうものである。そのうち約1/4は神経内科,脳神経外科,精神科,麻酔科などの臨床医が分担し,こうした基礎知識がなぜ臨床に必要かを講義している。しかし既に10年以上の経験を重ねているにもかかわらず,期待する程の効果はあがっていない。このような神経系の系別講義で,直ちに臨床に結びつく程の成果が上がらないのには,種々な理由はあるが,その一つとして適切な教科書が未だなかったことがあげられる。NIM"神経"の出版はこういった意味で,わが国の神経学の教育において誠に時宜を得たものといえよう。しかも編集,執筆の諸先生方は,わが国の神経学の担い手となるべき中堅の優秀な臨床家達である。この本は,その序にも述べてあるように"神経系の基礎的知識を"integrate"することを意図すると共に,臨床医学を学ぶために必要な知識を選択し整理したものである"。本書は大きく3つの部門から成り立っており,第1部神経系の機能では正常状態における運動,感覚,反射のメカニズム,呼吸・循環.体温・消化・排泄など生きるための神経機構およびサーカディアンリズムまでとりあげてある。第2部神経機構の破綻は,意識消失,けいれん,不随意運動,麻酔,めまい,頭痛など重要な症状がなぜ起こるか,また生命維持機能の異常,発達障害,神経系の老化などはなぜ起こるか,ことばと脳,本能と記憶などの解説を含めている。第3部神経機能の基礎は神経系の発達や構成,シナプスと神経伝達物質,脳循環,脳脊髄液,筋肉の働きなどを説明している。本書の構成はいわゆる教科書的ではないが,これは広い範囲にわたる多様な神経系に関する知識をできるだけ平易に,また興味をもって読めるよう章,項目建てを工夫したためのものと思われる。基礎的知識と臨床との結びつきを理解させるために,臨床的事柄も必要とは思うが,あえて言えば,めまいの項などは臨床に片寄っているように思う。
本書は神経学の基礎編として,学生や研修医,一般臨床家を対象にまとめられたものではあるが,神経内科医にとっても大変役立つ優れた参考書で,ここに広く推薦する次第である。本書が今後ますます発展して,神経学の教育に大きな貢献をなすであろうと期待している。
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