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著者の栗原照幸先生は,米国でインターン,レジデントを終了し,さらに大学の神経内科教室で研究員,講師を勤め,米国神経学会の神経内科専門試験にも合格してこられた方である。帰国後は勿論日本神経学会の認定医の資格も得られ,川崎医科大学の神経内科講師をへて,現在宮崎医科大学の内科助教授として神経内科学を担当し,活躍しておられる。このように著者は米国で育った生粋の神経内科専門医であり,今後わが国の神経内科学を担うホープと期待されている。
『症例神経内科学』を手にして,このような経歴の著者がどんな本をお作りになられたか,興味をもって読ませていただいたが,さすがによく書かれており感銘を受けた。本書には著者が自ら経験された症例を基にして,各症例の病歴,診察による理学的所見,さらに検査所見が要領よく提示されている。著者の目的とするところは,その序にも述べてある如く"実際の資料をありのままに図示し,検討して行くなかから神経内科的考え方および検査の進め方や読み方の基本をマスターしていくこと"である。本書には37症例が8章に分けて述べられている。まず序章では"神経内科的アプローチ"を簡略に記し,第1章は"脳血管障害およびそれとの鑑別を要する疾患の診かた"として15症例をあげ,第2章は"頭痛を主訴とする疾患の診かた"として3症例を述べている。日常よく接するこれら疾患も興味ある症例の選択により,充分に勉強できるように配慮されている。第3章には"末梢神経と筋疾患の診かた"6症例,第4章には"中枢神経系の感染症の診かた"4症例が含まれている。この中には好酸球増多症に伴う多発性単神経炎,家族性アミロイドポリニューロパチー,水俣病,Eaton-Lambert症候群を呈したSjögren症候群,特発性進行性多巣性白質脳症,Creutzfeldt-Jakob病など貴重な症例がとりあげられており,大変興味深く読むことができた。第5章では"発作性神経疾患の診かた"として4症例をあげ,脳波の読み方,てんかんの治療を述べてある。第6章は"パーキンソン病の診かた"2例,第7章"脊髄障害の診かた"2例,第8章"多発性硬化症の診かた"1例である。各症例の病歴,理学的所見の記載法にも注意を払ってあり,時には実際の病歴用紙に記載したものを提示してあるのも役立つであろう。
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