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このたび,私の尊敬する先輩自治医大神経内科助教授の水野美邦先生編集による「神経内科ハンドブック—鑑別診断と治療—」が医学書院から上梓された。私事であるが,水野先生がアメリカでの4年間にわたる輝かしいレジデント生活を終えて帰国された際,東大神経内科の病棟で,あるいは検査室で,直接お教えを受けたことがある。先生がこの本の序文でも述べておられるように,アメリカの神経学の教育はpracticalであったようで,当時の先生のお話の一言一言は実に現実に則した,まさしく痒いところに手が届く性質のものであったことを今でも生き生きと覚えている。このたびこの本を通読させていただき,その当時の先生の心意気がそのまま伝わってくるのを感じてうれしさをかくすことができなかった。
この本は,全5章から成り,1章が神経学的診察法(56頁),2章が症候から鑑別診断へ(176頁),3章が神経学的検査法(103頁),4章が診断と治療(252頁),5章が治療法と手技とポイント(45頁)であり,最後に付録として大脳高次機能検査のためのサンプルがついている。診断と治療は,いわゆる各論であり最も多くの頁がさかれているのは当然であるが,やはり目につくのは一つは序文でも述べられているように鑑別診断に多くの頁が与えられていて実に実際的に利用しやすく工夫されていることである。もう一つ目につくのは5章の存在であり,とくに救急蘇生法,静脈カテ挿入法,良性肢位のとり方,放射線治療の実際など,通常の神経学の本ではつい忘れられがちな方面に鋭い目をむけてあることであろう。もう一つ,編集に関して注目すべきことは,ともすれば新しい点にばかり目を向けがちな最近の神経学の本の中では珍しく,数多くの文献を引いてある中に古いけれども重要な貢献をした論文もきちんと引用してあることである。又,編集者の見識と思われるのはオリジナルのシェーマや表がふんだんに出てくることである。最近,神経学の普及に伴って多くの教科書,参考書が出版されるが,この本ほど著者自らが作成したと思われるシェーマや鑑別表が多く出てくる本は珍しい。しかも,それらは実に的をついた,いうならば「痒いところに手が届く」ものばかりであるのもうれしい。
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