連載 症候学メモ・21
抽象的症候と具象的症候
平山 惠造
1
1千葉大学神経内科
pp.858
発行日 1986年9月1日
Published Date 1986/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205772
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◆数限りなくある神経学上の症候名の中には,抽象的なものと具象的なものとがある。その二,三を例示してみると,まず第一に脳裏に浮かぶのは錐体路症候である。我々が錐体路症候陽性といったとき,それに一対一対応する所見があるわけでなく,通常は,痙縮,腱反射の亢進,Babinski徴候などが認められたことを基に,そのようにいっている。つまり,痙縮も,腱反射亢進も,Babinski徴候も一つ一つが具体的な個々の徴候であるのに対し,錐体路症候というのは,それらを総括した一つの概念的なものである。前者は具象的症候に属するものであり,後者は抽象的症候である。いいかえるなら,具象的症候はそれ自体を提示することができるのに対し,抽象的症候はそれ自体を一つのものとして示すことは困難である。
◆同じようなことは,錐体外路症候についてもいうことができる。これには筋強剛(固縮)も,舞踏運動も,アテトーシスも含まれ,これらのどれかがあれば錐体外路症候がみられるといえるが,錐体外路症候があるといっても,それは概念的な,抽象的名称であるので,どのような症候があるかはわからない。このように錐体路症候や錐体外路症候は,そこに用いられているのが解剖学名であるので抽象的症候や具体的症候の区別もわかり易い。小脳症状についても同様であろう。
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