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あとがき
金光 晟
pp.933
発行日 1984年9月1日
Published Date 1984/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205386
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第9号をおとどけする。本号は「脳内出血」の特集でご覧のようなテーマでそれぞれ専門の先生に執筆して頂いた。
脳実習はご承知のように脳血管にはじまり,しかもその要となる動脈輪から話がはじまる。この動脈輪の記載者Willis (1664)は精神の座を脳室から脳実質に移したことでも医史学に名をとどめている。生物学の祖とされるAristoteles (前4世紀)は精神の座を心臓におき,解剖学の父といわれるHerophilos (前3世紀)は脳室においた。脳室はイタリアの解剖学者Massa (1536)が液体で充たされていることを明らかにするまでは空気で充たされていると考えられた。脳室ばかりではなく動脈も空気を運ぶと解されていた。屍体では動脈に血液がないことが多いのである。そして古い生理学は,肺によって外界から取り入れられた生命プネウマは心臓から動脈によって全身に送られ,脳に送られた生命プネウマはさらに動物プネウマが付加されて神経によって全身に送られると教えた。神経まで中空であったわけである。ちなみにarteriaは空気を運ぶものの意で, arteria leia (なめらかな気管)とarteria tracheia (粗い気管)とに対置され,前者は前半,後者は後半が解剖学用語として生き残っている。1543年にVesaliusの人体解剖書,1628年にHarveyの血液循環生命,1661年にMalpighiの毛細血管が世に出るにおよんで,プネウマ説は影をひそめた。Willisの脳解剖書(1664)は丁度この時期に書かれたわけである。
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