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あとがき
金光 晟
1
1東大
pp.623
発行日 1982年6月1日
Published Date 1982/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204960
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第6号をおとどけする。本号は鳥居教授から総説「失読と失書」をいただいた。ヒトを他の動物から区別する最大の特質は分節性言語といわれるから,失語症はヒト故に背負い込んだ病なのであろう。化石人類で脳容積のわかつているのは400万年前のアウストラロピテクスまで遡るといわれる。この400万年間に人類はその脳容積を500mlから1300mlに増大した。こんな短期間に脳容積を確実に増大させた動物は他にないという。このような急速な脳容積の増大を説明する要因論は勿論まだ存在しない。言語がその要因の一つではないかと空想するのも楽しいことである。
言語は人類と共に古く,また人が言語に寄せた興味も随分と古いらしい。Herodotosの「歴史」(前5世紀)に次の意味の一節がある。エジプト人は全人類のうちで最古参であると自負していた。前7世紀のエジプト王Psammetichosはこれを実証するために2人のみどり児を羊飼いに育てさせた。その際,何人もこの児達の前で一語も発してはならないと命じた。毎日山羊の乳を飲んでは泣いて2年が過ぎ,この児達がはじめて発した言葉はペコスであった。王がこの語を詮索させると,プリュギア人がパンをそう呼ぶとわかつた。以後エジプト人はプリュギア人の方が古参であると信じたという。
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