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あとがき
有馬 正高
pp.517
発行日 1983年5月1日
Published Date 1983/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205129
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- 文献概要
自然科学の分析手法の進歩にともない,ヒトの病気についても細胞の微細な構造を明らかにし,一方では,化学的に超微量定量による物質の動態解析が日常のものになっている。構造の変化と化学的な物質の組成の変化を結びつけることが病気の機序を解明するステップとして重視され,事実,それによって多くの病気の本態が明らかにされてきた。中枢神経系の先天代謝異常症などは形態異常の特徴について指摘があり,ついで,物質の過不足から特定の酵素の欠乏または蛋白構造の変化による活性低下が証明されるようになった。一般に,代謝異常や中毒物質などにもとづく疾患の解明にはこのような過程をとったものが多い。また,物質の組成に対する関心は異なるにしても,特定の物質と形態の変化を結びつけたという意味においては,感染症についての研究も類似のものといえよう。
このような疾病の原因の研究の一方で,機能や機能異常についての研究が表裏一休をなして行なわれてきた。特に,疾病を対象とする治療医学の領域でもっとも重視するのは機能異常であり,臨床医学の出発点が症候分析であることも白然である。形態の変化や化学物質の変化があったとしても,機能上に全く問題がなければ,それは個体差と呼んで治療医学の対象にはほとんどなり得ないからである。しかし,このような個体差によっていろいろな外因や他の内因によって生ずる病気の症候が多かれ少なかれ修飾されるという認識も生れている。古くからあった体質という概念に近代科学の光があてられているようである。
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