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あとがき
有馬 正高
1
1神経センター
pp.108
発行日 1981年1月1日
Published Date 1981/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204707
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- 文献概要
12月8日の開戦記念日になると戦争を偲ぶいろいろな番組がテレビに放映され,毎年,あれから既に何年たつたと数えることをくり返す。医学の領域でも戦争にまつわるいろいろな事件が語りつがれているが,直接の戦死,戦傷,被災にとどまらず,栄養,感染,医薬品の供給,国民の衛生統計資料などいろいろな面での悪影響があった。発達期の極度の蛋白摂取量の低下は大脳のDNAやRNA合成の低下をもたらすという動物実験の成績が人間にもある程度あてはまる可能性がある。道で寄つてきて両手を差し出し食物をせがんだ全裸の栄養失調の戦争孤児達が,その後どのように成長したであろうかと想い起こされる。終戦翌年の飢餓状態の頃,苗床の甘藷が荒らされることに業を煮やした農家がわなをしかけたところ,近隣のあわれな畠どろぼうの指を切断した事件も語りつがれている。これらも,戦争そのもののもつ被害のなかに数えられよう。
多産多死から少産少死への移行,感染症死亡の激減,成長の促進,予防医学と衛生統計の整備など,近年におけるわが国の国民医療実績の向上は,資源に乏しいわが国に永く平和が続いたことが大きく働いている。それにしても人間の弱さとともに適応性の広さにも驚きの念を禁じ得ない。
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