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あとがき
有馬 正高
pp.619
発行日 1985年6月1日
Published Date 1985/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205536
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- 文献概要
患者の示す情報を正確にとらえ,筋道をたてて病巣と性質を判断する臨床診断の面白さは,脳が外から見えず,複雑で,しかも高度の機能をもつ相手であるだけに意欲のある若い学徒の興味をひきつけてきた。日本の神経学が,欧米に比して浅い歴史にもかかわらず戦後急速に発展したのは,優れた先達が競って欧米の蓄積を吸収し,さらに,自分達の力で未知の問題を解決しようと努力してきた結果であろう。
一方,神経学は難解で,しかも治らない患者が多く喜びが薄いと感じて敬遠される傾向もあったように思われる。神経解剖・生理・生化学・薬理学などがそれぞれの専門性をもって発展し,毎年数百篇の論文による精密な知見が集積されてきたにもかかわらず,臨床神経の場に直接利用できる内容はごく限られているという印象をもたれたことも認めざるを得ない。哺乳動物を主な対象とする基礎医学の豊富なデーターのなかから合いそうな鍵を臨床家が適当に選び,眼前の鍵穴にさしこんでうまく合うかどうかを経験的に探るというくり返しが永く続いてきたように思える。基礎的知識を利用できないのは臨床家の不勉強のせいで,その日その日の患者への対応に自己満足しているからだという批判もよくきかされたものである。
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