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あとがき
塚越 廣
1
1医歯大
pp.1189
発行日 1980年11月1日
Published Date 1980/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204678
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年甲斐もなく北岳に登つてみた。9月の連休のことである。松本にいた頃はアルプスの山々を眺めるだけで十分満足だつたのに,人の混み合う東京に来たら無性に山に行つてみたくなつたのと,大学のコンクリート階段の上り下りに慣れて,いささか足に自信がついたようにうぬぼれたためでもある。
実際に登りはじめると,病院の階段のようなわけにはゆかず,次第に苦しくなつた。はじめのうちは「家で寝ころんでいればよかつたかな」と思いながら歩く余裕があつたが,コルのみえるあたりに来ると,胸の動悸が激しく,足は重く前に出なくなつた。一寸進んでは休んで息をついたが,休憩後はかえって足がもつれてしばらく歩きづらかった。終には間歇性破行様の下肢痛もでてきてもう駄目かなと思うこともあった。足がふらつき頭がぼうつとして生死の間をさまようような気分になることすらあった。何とか登ってやろうという気力だけは失わず,どうにか目的を達したが,何とも危なつかしい登山だつた。
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