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京大伊藤教授による「末梢神経の外科」が医学書院より発刊された。末梢神経の書物としてはSeddonの編集になるPeripheral Nerve Injuries (1954),のほか同名のHaymaker and Woodhall (1956)の書物,またBate—man (1962)のTrauma to Nerves in Limbsがあるが,既に十数年以前の発刊であり,比較的新しいものとしてはSunderland (1968)のNerves and Nerve In—juriesとSeddan (1972)のSurgical Disorder of thePeripheral Nervesがあるのみであつた。一方我が国においては末だこれに類する書物はなく,長くその出現が望まれていたところであるが,ここに人を得て末梢神経損傷の基礎から診断,治療,そして予後に至るまでの全体をカバーする臨床医必読ともいうべき書物が出現した。我が国には所謂教科書とか解説書のようなものは比較的多いのであるが,1つの問題点をとらえてこれを深く追求することにより成り立つた書物は比較的少ないように思われる。しかもそれが臨床の問題点をとらえての書物は極めて稀といつてよい。これは日木医学の特殊性というか臨床医学にたつさわる者の多くがややもすれば物まね的に終つて1つの疾患を独自に深く追求するだけの厳しさを持ち続けることが極めて困難なためと思われる。これは我が国における大学環境が臨床に徹することを許さないことによると思われるが伊藤教授には常に学問をする者の気骨を持ち続けられたからこそ,このような書物が生れ得たものと拝察する次第である。
先生が発表されたfunicular suture (1963)については余りにも有名であるが,最初の発表が我々の教室の石川文彦君との協同発表であつたこともあつて,私には特に印象深いものがある。同君はその後これをテーマに学位論文をまとめられたが,たまたま私は1967年秋,学会出張の途中でウィーンのDr. Millesiをお訪ねしたところ彼は手術のデモンストレーションと共に彼のfuni—Cular sutureについてのデータを示され,とくとくと説明があつたのであるが,その際私は石川君のデータ,特にヒストグラムによる比較などにつき説明したところ,彼は非常に驚き別冊を早急に送るよう依頼された次第であつた。以後Millesiは石川君の論文を高く評価し,彼の参考文献には必ず同君の論文を記入するようになり,またその後,彼の主催されたマイクロの研究会には石川君宛の招待状が送られて来たことも今はなつかしい思い出である。
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