書評
—椿 忠雄・佐野 圭司・五島 雄一郎 著—臨床神経学(改訂第2版)
相澤 豊三
1,2
1立川病院
2慶応義塾大学
pp.364
発行日 1976年4月1日
Published Date 1976/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203866
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今から200年前,杉田玄白らの解体新書の中で創めてみられた神経という語は,神気の神と経脈の経とを合せての術語であるが,神の字を用いたのはおそらく霊妙不可思議な働きを持つという考えが含まれる。語源的にラテン語のNervusは白い紐状のものを言うので,玄白が神の字をつけたのは甚だ大胆であつたといえる。と小川鼎三教授は雑誌神経内科(1巻115頁昭49)で述べていられる。
その神経と最も関連の深い脳という語は,これに反し,古くから用いられてはいるが,漢方第一の古典といわれる内経(素問・霊枢)によれば,脳を髄の中心的存在と見做してはいるもののこれを五臓六府の中に入れず奇恒(奇病)の府として特別扱いをしている。ある程度の解剖学的な認識はあつたとしても幼稚であり,また生理的機能についての表現も極めて抽象的であり,脳における記述に現代的意義を見出すことはできない。それ以後,脳について古典を訂正したり新知見の展開がなされずに永い歴史が流れてゆくのである。他の臓器と異なり硬い頭蓋骨にとり囲まれ外部からの侵入を許そうともせず冷然となりすましているこの脳は洋の東西を問わず,医学研究者にはとつつき難い存在として敬遠されていたものとみえる。
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