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本書は,わが国の脳神経外科施設として長い伝統と歴史をもつ東京大学脳神経外科教室において経験した3,428例の脳腫瘍(うち狭義の脳腫瘍2,771例)をもとに,同科主任佐野圭司教授が,深い造詣を駆使して著わしたユニークな脳腫瘍ガイドブックである。とにかく学生や初学者に,難解でともすれば敬遠されがちの脳腫瘍の臨床,病理のすべてを,全編を通じ,きわめて平易に,わかりやすくのべている。それというのも本書にかかれたすべてが,著者が身をもつて治療した経験例と,苦心した結果を総括したものであるからであつて,単に他からの翻訳や,うけうりを活字にした書物とわけがちがうからであろう。
本書は総論と各論とに分けられ,総論においてはまず脳腫瘍の定義,種類頻度,分類などについてのべられ,ことに分類については,Bai—Iey,Cushingにはじまる分類法を歴史的に罹列するのみならず,あくまで臨床家に便であるように,最近のZülchの臨床面,悪性度を考慮した分類法まで詳細に記載し,著者の考察をおりまぜてある。脳腫瘍の症候学,診断学は,脳神経学科を学ぶ初学者にとつて,最も早期より完全にマスターすべき事項の1つであるが,この点については著者の豊富な経験が生きており,臨床神経学的検査からえられた様々の所見に対し,どのような補助検査法が,最も適確,かつ早く,最終診断につなげることができるかを,きわめて要領よくまとめ上げている。脳腫瘍の治療については手術的療法のほか,化学療法,放射線療法,対症療法の順にのべられ,ことに著者がここ10数年,最も力を注いでいるBUdR法,棚素中性子捕捉療法についてはかなりくわしくのべられている。これらはこの方面の研究を志す初学者に大きい示唆を与えるものであろう。次いで実際に手術するにあたつて肝要な一般的事項を,具体的に簡潔に,要領よくのべている。
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