人
この人を得て東京都立神経病院院長 椿 忠雄氏
豊倉 康夫
1
1東京大学医学部
pp.656
発行日 1980年8月1日
Published Date 1980/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541207212
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都立神経病院の開設は,患者にとっても,医師にとっても長い間の念願だった.武蔵野の一角にすばらしい建物と設備をもっこの神経専門病院は,椿忠雄院長という正に最高の人を得て一層歴史的な発足となった.
椿忠雄氏は昭和20年東京大学医学部卒業後,沖中重雄教授の下で神経学を志し,その後30有余年その道一筋の精進をつづけてこられた方である.先生の歩まれた道は決して安易ではなかったし,我が国における臨床神経学の確立と発展のために尽された蔭の御苦労と不屈の意志を私どもはよく知っている.高潔な人格公平無私な態度,冷徹な論理,そして先生の心暖かさは,学界の良心という言葉こそふさわしい.学問的な業績は数多いが,なかでもスモンの病因としてのキノホルムの発見,有機水銀中毒に関する広汎な研究は,我が国の誇るべき業績として万人の知るところである.神経学の臨床が限りなく深く,道遠く,高いものであることを,先生は身をもって証しつづけておられる方であると,いつも私は思う.そして,先生の学問には,いまだかつて「患者」を欠いたことがないのだ.
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