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Lafora小体の美しい印象的なカラー写真を添え,ミオクローヌスてんかんの知識を極めて要領よくまとめられた本書は,てんかんの臨床や研究に従つておられる方々以外にも一般臨床医家ことに精神神経科,小児科,内科,脳神経外科,病理あるいは神経生理の領域の多々の人々の渇望の書ではなかつたかと思われる。ミオクロニーまたはミオクローヌスてんかんという名は誰にでも耳慣れた病名であるが,その中には色々の基礎的に違つた疾患が含まれているためこれまでは統一した疾患概念がはつきりしなかつた。また一般のてんかんや病理の教科書では,関連疾患の系統的配列と相互の鑑別についての記載が少なかつたため,全貌を理解把握することが仲々困難でもあつた。ところが今度前記の単行本にミオクローヌスてんかんの総てが収められたことによつて,読者は一目でミオクローヌスてんかんの何たるものかを,臨床と病理の両面にわたつて展望し理解することができるようになつた。この本は久留米大学脳疾患研究所と同精神神経科教室で多年積重ねられた研究を基とし,日本におけるミオクローヌスてんかん研究の最も優れた2人の研究者によつて編集されたものである。その中の1人である稲永教授は,本書の中でミオクローヌスてんかんの歴史的考察を踏え,ミオクローヌスてんかんとはこういうものであるとその概念を明瞭にされている。また,これまではほとんどなされていなかつた神経病理学的基礎に立つた系統的臨床脳波および電気生理学的研究を詳しく述べられているのは本書におけるひとつの大きな特徴と言えよう。本書はまた安楽助教授を中心に行なわれた神経病理学的研究の集大成とも言える。豊富な光学顕微鏡写真や電子顕微鏡写真によつて,一目して基礎的知識が得られるよう親切に工夫してある。さらにこの研究者の神経病理学的ならびに生化学的に独自な見解が加えられているものの,全体としては内外の諸説を余すところなく紹介し,一方に偏するところがない。また各章の末尾には関連文献がほとんど総てあげられているから,本書はミオクローヌスてんかんに関する最新の文献集としても役立つものと思われる。最後にミオクローヌスてんかんの治療にまで言及されているが,これも臨床家にとつては格好な指針となるであろう。
書名からして何如にも専門的でありとっつき難い感をもたれるかも知れないが,文章は平易で分かり易く書いてあるから誰でも楽しく読める本である。本書は編集者も書かれているように,ミオクローヌスてんかん研究の終点を示すものではないが,しかし今後研究を発展させる若い研究者にとつては本書が重要な礎石となるものであるというところに,本書の利用価値の一面がある。
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