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垂直方向の両眼共同凝視麻痺と輻湊麻痺とを併わせてParinaud症候群と称するのが本来である。すなわち,Parinaud症候群は両眼の凝視運動が垂直方向で障害され,普通これに輻湊障害も伴なう。しかし,垂直方向の共同視運動は常に必らずしも上下両方向に障害されるとは限らず,(1)上方視のみが障害されるもの,(2)上下両方向に障害されるもの,(3)下方視のみ障害されるものがあるが,実際には(1)>(2)>(3)の順で,(1)が最も普通にみられる形である。
ところで,垂直共同視麻痺に輻湊麻痺を伴なうもののみをParinaud症候群とする学者と,輻湊麻痺の有無を条件としない学者とがあり,これらは国により,又人によりその習慣が異なる。他方,垂直共同視麻痺には自発的(随意的)な共同視のみが麻痺する型と,それのみならず自働的(反射的)にも共同視現象の起こらない型とがある。後者の型は病変が動眼神経核に比較的近い下位垂直凝視中枢(仮想的に考えられている),すなわち中脳付近に存するときにみられ,かつ輻湊麻痺を伴なうことが多く(絶対的ではない),前者の型はそれより上位の大脳レベルの障害に際して生ずる垂直凝視麻痺にみられるとされている。このように症状(徴候)と病変部位とは未だ厳密に一対一対応するようには分類されていない。従ってParinaud症候群は,その原型は原著(1883)に基づき垂直共同視麻痺に輻湊麻痺を伴なうものであるが,時に輻湊麻痺を欠くことがあり,又垂直共同視麻痺には随意性,反射性共に麻痺するものと随意性・反射性解離を示すものとがあると理解されよう。即ち,Parinaud症候群の中軸をなすのは垂直共同視麻痺であり,それにいくつかの問題点が付加されるのである。
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