--------------------
編集後記
有馬 正高
pp.113
発行日 1974年1月1日
Published Date 1974/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203490
- 有料閲覧
- 文献概要
生前の診断や,治療が適切であつたか否かの反省の資料として剖検が重要であることは申すまでもない。剖検の承諾が得られるか否かは,生前,臨床医,特に主治医が患者や家族の満足のいくようにどれくらい一生懸命努力したかによつて左右されるといわている。これは,特定の例外は別として昔も今も変らぬ真実を伝えているように考えられる。一方,主治医が苦心して説得し,家族もそれに応えて遺体を提供してくれたからには,得られた臓器を最大限に有意義に生かすことが不可欠である。脳の疾患の場合,かつての剖検の主目的は,臨床診断と病理診断との照合や,症状の分析から局在をどの程度推測し得たかという反省の糧であつた。しかし,近年は,疾患の本態解明のため,多元的手法が要求されるようになつている。たとえば,不明の進行性変性症や腫瘍におけるウイルスの分離や,先天代謝異常や遺伝性変性疾患における脳の各局在に対応した各種の生化学的分析などである。これらの分析の場合,ホルマリン固定の材料では変性し,もしくは,水に溶けて流出してしまうから,生の標本を凍結して保存しなければ多くは利用し得ない。臨床,病理,ウイルス,生化学などの専門家が協力して解明に当らねばならぬ疾患の場合,特に剖検の機会が少ない疾患では,少なくとも何分の一かは凍結保存をするルールが確立して欲しいし,保管された材料を刻明に分析し,最大限に活用する道をつくることが死者や家族に対しむくいる道にもなろう。
Copyright © 1974, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.