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今年の最終号はくも膜下出血の病態と治療についての綜説を掲載することができた。臨床医にとってなじみの深い古くて新しい問題である。原著についても,虚血,出血を含む脳循環障害に関係の深い5篇が収録されている。近年,脳の循環障害は死因としては第1位の座をゆずってきたが,後遺症や進行性の脳機能障害に悩む人々は周囲に多い。そのような有病率を考えると,今日なおもっとも重要な疾患であることを疑う余地はない。基礎医学,内科学,外科学,精神医学のいずれにも共通する問題として,新しい研究の方法が導入され,脳血管の発生,脳代謝におよぼす影響,細胞機能の修復を目指す薬物,血行を改善するたあの外科的,内科的治療の開発など多くの人が取り組んでいる。また,脳循環の動態についての画像診断などによる解析の進歩も著しい。脳循環障害は,単に熟年の問題にとどまらず,胎児,新生児における死亡や脳障害の原因としてもきわめて重要な課題である。我が国におけるその対策の進歩と普及が新生児死亡や後遺症の減少として反映され,わが国の乳児死亡率の低下と平均寿命が世界一の水準になったことにも一役買っていると信じられる。
この編集後記の執筆中に,椿忠雄先生の御逝去の報に接した。わが国における臨床神経学の指導者として,また,都立神経病院院長として現役で御活躍中の悲報である。先生自ら外来診察の予約を患者に通知されながら,直前に死去されたと新聞に報じられていた。スモン病の病因の発見と迅速な通報,新潟における有機水銀中毒患者の診断など,新しい患者の発生を未然に阻止した歴史に残る先生の業績を想い起しつつ心から御冥福をお祈り申し上げたい。先生を日本の医学界から奪った原因も脳室内出血であったと教えられた。
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