書評
—大熊 輝雄 著—臨床脳波学(2版)
島薗 安雄
1
1東京医科歯科大学
pp.821
発行日 1971年7月1日
Published Date 1971/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406202936
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臨床診断の立場から脳波をよむのには相当の熟練がいるといわれる。たしかに,ある程度自信をもつて脳波をよむためには,かなり多数のものを見て目を馴らす必要があるようである。このように経験がものをいう原因の一つは,脳波が不規則な波の連続で,いろいろな性質について正確な規準値を作ることが困難なことにある。例えば,それぞれの年令層の大よその正常範囲はいわれているが,細かいところになるとはつきりしない点が多い。またスパイク様の波が出ている場合に,それを病的な意味をもつたスパイクと判定するか,基礎活動を構成する波が,たまたま尖つて大きくふれたものか,というような鑑別も,全体の状況の中で始めてできることがしばしばある。このような点を考えると,脳波による臨床診断はまだまだ多くのむつかしい問題をかかえているように思われる。
しかし,また別の観点に立つと,脳波診断はひどく簡単なもののようにも見えて来る。どんな病気の場合にしても,結局は,構成する波の中に周期の長いもの(徐波)や短いもの(速波)がどの程度あるかとか,頭皮上の前方と後方との振巾のちがい方や左右の対称部位間の差違の有無とか,棘波・鋭波・除波群発などの突発活動が出るか出ないかとか,いつたような,ある数の項目の変動が中心となるわけで,したがつて,てんかんなど少数のものを除いては脳波だけで病名診断を行なうことはできない。そういう意味からいうと,脳波について大部な著書をものするということは退屈な仕事のようにも見えて来る。
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