- 有料閲覧
- 文献概要
大熊輝雄教授の「臨床脳波学」の第3版が出版された。第2版出版後13年,初版から数えると20年になるロングセラーである。その間本書は本邦における最も標準的な脳波学の教科書として広く読まれ,一応臨床脳波を勉強した医師で本書を緒かなかったものはないと言ってよいと思われる。このような体系的な脳波学書は本邦には類がなく世界的にみても多くはない。最近E.Niedermeyer and F.Lopes da SilvaのElectroencephalography:Basicprinciple, clinical applications andrelated fields,1982が出版されたが,これが多数の著者による分担執筆で,topic的に臨床脳波をとりあげ,稍々統一に欠ける感があるのに対し,大熊教授の著書はオーソドックスに適当な配分で臨床脳波の全領域を広くカバーしていることが特徴である。すなわち,1.脳波研究の歴史,2,脳波検査法,3.脳波の分類と記載,4.正常脳波,5.異常脳波,6.てんかん,7.小児科領域の疾患と脳波,8.頭痛と脳波,9.睡眠異常と脳波,10.脳腫瘍の脳波,11.脳の血管障害および循環障害の際の脳波,12.脳の炎症性疾患と脳波,13.頭部外傷の脳波,14,その他の器質性脳疾患の脳波,15.内分泌障害代謝障害と脳波,16中精神医学領域における脳波,17.脳波所見の判読と脳波,18.臨床脳波検査室の構成人員,さらに基礎編として,19.生理学的変化と脳波,20.薬物と脳波,21.直接導出脳波,22.脳波の分析法,直流電位,誘発電位,23.脳波の神経生理学的基礎,24座脳波計と周辺機器,というように考えられるすべての領域がとりあげられている。しかも20年前の初版と全く同じ構成であることも注目され,いかに著者の最初の構想が適切であったかを知らされる思いである。ただ総頁数は532頁で,初版の532頁と同じであり,第2版の598頁より大幅に減頁されているが,これは2段組にしたためであり,内容は大幅に増加している。記述は要領よく,簡潔,しかも正確であり,教授の御人柄と学問に対する態度を偲ばせる。広汎な記述の端々にいたるまで臨床との関連が重視されており,脳波の専門家でなくとも,脳の機能或いは病態に関心をもつ医師にとっては極めて有用なハンドブックであろう。
Copyright © 1983, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.