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編集後記
萬年 甫
pp.1223
発行日 1970年10月1日
Published Date 1970/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406202802
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- 文献概要
本号のあとがきを書き始めようとしている時,がんセンター久留勝先生の訃報に接した。ついさきごろ先生が御病気ということをちらと耳にして,御見舞状をと思いつつ筆不精のせいでおこたっているうちに機を失してしまつたことになる。悔まれてならない。
世間で先生を癌の専門家と評価するのはその肩書からしても無理からぬことであるが,筆者は不幸にして先生がその方面でどのような御仕事をされたのか全く知らない。筆者が敢えてこの紙面を借りて強調したいのは,先生が神経学の領域で古典の中に列せらるべき不朽の業績をあげられ,わが国の神経学のために極めて大きな貢献をされたということである。その御仕事は大きく分けて痛覚伝導路と排尿機構に関するものであったといえよう。前者はさきに学士院賞受賞の対象になり,すでに定評があるが,後者も国の内外で高く評価され,その徹底かつ整然とした研究の進め方と結論は圧倒的な迫力をもち,講演会でうかがっているとあふれるばかりの御自信にかるい反撥をおぼえるほどのものであった。その排尿機構の研究を手がけられる動機になったのは新潟の中田先生が学会かなにかで,小脳疾患で排尿障害がしばしばおこるが,その原因が判らないともらされたことであったとか。かってその中田先生が本誌に御自分の体験をつづられ,わが国の脳神経外科の生い立ちについて読者に深い感銘をあたえられたが,久留先生にも先生の御研究についてそうしたものを御執筆願いたいとかねてから考えていた筆者としては,いまやなぜもっと早く実行しなかったかと痛恨の念にかられている。
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