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5月号をお届けする。本号にも発表が見られるが,現在神経科学ことに神経解剖学と神経生理学の領域ではHorseradish peroxidaseを用いた逆行性軸索内追跡法が世界をあげて大流行になつている。今春の解剖学会での神経研究部門の発表の大部分がこの方法を用いているのを見てもそのすさまじさが分る。従来神経伝導路の起始細胞を知るには軸索を切断し,Nissl法を用いてその上流ないし下流領域に,特有な細胞変性像を求めるのが常套手段であつた。これでは大形細胞の変性像は容易に分るが,中ないし小形細胞となると必ずしも変性が鮮明でないというきらいがあつた。これに対しHorseradishperoxidase法はその微量を生体内に注射すると,その部位に分布しているか,そこを通過する神経線維にとりこまれて軸索を潮行し,起始細胞に達してそこに顆粒状に貯えられるという現象を利用したものである。しかもこれを暗視野で見ると夜空に星を見るように輝いて見えるので検索し易く,細胞の大小を問わないという利点がある。おまけに注入してから標木ができるまで僅か数日しかかからず,これまでいずれをみてもかなりの時日を要した神経解剖学的方法にいささか手を焼いていた生理学領域の方々にも愛用されているというわけである。
難点といえばこの薬物が輸入にたよるかなり高価なもので,かつ長期の保存には耐えないということであろう。Horseradishというのは西洋わさびないしわさびだいこんとよばれるありきたりの植物であり,なにも高い金を出して外国品を買うこともなかろうと,化学専門の人に国産品はないのでしようかとうかがいをたてて見た。ところが,ないわけではないが,使いものにはなりませんよというにべもない返事で,少なからずがつかりした。
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