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今年もはや後半に入り,7月号をお届けする。投稿が相変らずさかんな上に前半に出版元のお家の事情で編集が長びいたりして,審査に追われ,たとえ採用になつても活字になるまでに少々時間のかかることをあらかじめお含みいただければ幸である。
科学は日進月歩のお題目通り,神経解剖学にも戦後いくつかの新しい方法が導入されている。中でも注目に価するのは軸索の変性を染め出すNauta法で,ここ10年程の間にこれによつておびただしい数の研究が生み出されている。ところが最近FinkとHeimerの方法というのが開発されてあらたなブームがおこるかに見える。その染色の過程で硝酸ウランを用いることから,脳研究にもとうとうウラニウムが登場したかと感慨にふける人がいるかもしれない。現在ではこの種の薬品を使うには放射性物質使用規準にしばられてそのすじに許可を求めねばならず,なかなかわずらわしい。しかし,このウランが脳の染色に用いられはじめたのは決して新しいことではない。すでに今世紀はじめにRamón y CajalがGolgi装置の染色やグリヤ染色の前処置に用いているのである。事実彼は周期律表のあらゆるものをためして見たのではないかと思うぐらい色々の薬品に手を染めており,ウランなどもそのひとつにすぎない。当時のスペインでそのようなものが容易に入手できたかどうかさだかではないが,実におどろくべき努力と執念である。孫悟空ではないが,八方あばれまわつては見たものの結局大日如来の掌から出られなかつたというが,神経学の領域ではどうものRamón y Cajalの掌からはみでるのは容易なことではないらしい。彼が生まれたのが1852年5月1日,来年はその彼の生誕120年がやつてくる。
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