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先号の編集後記でも塚越委員が書いておられたが,本誌も23巻に達した。昭和23年11月が創刊であるが,筆者などは研究室に入つたばかり,当時雑誌や単行本を唐草模様の風呂敷にくるんでしよつて来る行商姿の本屋から,今度「脳及神経」という新しい雑誌が出ましたがいかがですかとすすめられたのが本誌に接したはじめである。のちにその編集の末席につらなろうなどとは夢にも思わなかつた。感ひとしおである。それにしても当時の編集委員の方々の大半がいまだに各方面で縦横に活躍しておられるのは誠によろこばしく,われわれ後輩にとつての大きな励ましとなつている。今後とも本誌がわが国の神経学の発展のために重要な役割を果たすよう大いに努力しなければならないと思う。
数字がでて思い出したのだが,昨年1970年はフリッチュとヒッッィヒが大脳皮質運動領を実験的に証明してから100年目にあたつていた。筆者はかつてこの2人の原著「大脳の電気的興奮性にっいて」(Archiv für Ana—tomie und wissenschaftliche Medizin, 37: 300〜332,1870)を読んで大きな感銘を受け,「神経研究の進歩」(第8巻2号,昭和40年)にその翻訳をのせたことがあるが,これは電気生理学の濫觴でもあり,また中枢神経系の機能局在論にとつても画期的な価値をもつものであると思う。内容は実に新鮮で,随所に現代でも決して読みすごすことのできぬ重要な問題を含んでいる。たとえば,大脳の刺激効果には,灰白質と白質とでいずれがどんな価値をもつかを問題にするのはよいが,もしも灰白質と白質という概念のかわりに線維と細胞という言葉を対立させたとすると解決はむずかしいと述べたところなど,常日頃生理学畑の人々と意見を交換していていつもぶつかる事柄であり,100年も前にすでにこのことを考慮し問題にしていたのかと驚きかつ感心したことがあつた。筆者自身100年目ということに気付いたのが昨秋のことであり,何かこれを記念する企画を組むにも時がおそすぎた。残念なことであつた。
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