書評
—土居健郎著—精神分祈と精神病理/—W.R.Hess著 平井富雄訳—心理学の生物学的基礎
村上 仁
1
1京大神経科
pp.334-335
発行日 1966年3月1日
Published Date 1966/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406202020
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土居氏の新著「精神分析と精神病理」は氏が昭和31年に出版された「精紳分析」という著書を,その後の氏の精神分析的経験と理論の発展に基づいて書き直されたものであるという。氏の旧著もフロイドの理論を明快に解説した立派な本てあるが,今度の新著の特色はいうまでもなく氏の「甘え」の理論を基礎とし,これによつてフロイドの理論的体系を新しく誉き直そうとされた野心的な試みにあると思われる。
土居氏の「甘え」の理論は,1958年に日本の森田神経質の患者の「とらわれ」の心理の根底には「甘えたくても甘えられない」という葛藤があることを認めたことに初まるようである(精神神経誌,60:1958)。そしてこの「甘え」の欲求は日本人に特に顕著に見られるものであることを,これに相当する外国語がないという事実をもそ旁証として主張されたのであるが,次第にこのいわゆる口唇期に初まる基本的依存欲求は人間すべてに共通な普遍的欲求であり,この欲求がフロイド理論の中で重要視されていないのは,一つには当時の西欧社会ではこの欲求が一般的に蔑視される傾向があったためではないかと論じ(Psychiatry 26:1963),更に本書ではフロイド自身が愛されたい欲求に関して重大な葛藤をもつていたことが,この欲求を無視させたのではないかとも述べている(本書附録「人間フロイド」)。
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