特集 脳腫瘍再発の問題点
司会のことば—prolegomena
佐野 圭司
1
1東京大学医学部脳神経外科
pp.108-109
発行日 1966年2月1日
Published Date 1966/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406201984
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最近,悪性腫瘍すなわちいわゆるがんに対する啓蒙運動がさかんで,一般のこれに対する認識も関心もきわめて深くなっており,はなはだけつこうなことと存じます。ところが,脳腫瘍はそれが病理学的に良性であれ,悪性であれ,すべて放置すればその個体の生命をうばうにいたるので臨床的にはすべて悪性腫瘍とみなすべきでありますが,これに対する認識も関心も,いまだ低調であるといわざるを得ないのは残念であります。
こういう事態に立ちいたつた原因のひとつとして,脳腫瘍はまれなものであるというあやまつた考え方が一般人の間にはもちろん,相当な学者の間にも広まつているということがあげられます。脳腫瘍はけつして少ないものではありません。米国の神経疫学者のKurland1)によりますと人口10万につき,原発性脳腫瘍は年間9.2,転移性脳腫瘍は年間5.0の割合で見られるということであります。したがつて東京には年間920例の原発性脳腫瘍が見られるはずであります。ところがわれわれの教室であつかいます脳腫瘍は年間250例ぐらいであり,ほかのクリニックを合わせましても,専門的治療をうける脳腫瘍症例はおそらく年間500例ぐらいだと思います。つまり東京のような都会でさえ脳腫瘍症例の半数近くが,専門的治療はもちろん,正しい診断さえもなされないでヤミにほうむられているのが現状のように思われるのであります。すなわち脳腫瘍に関するかぎり,まだまだ啓蒙運動がたりないのでありまして,この意味におきまして今回がん学会がシンポジウムのひとつに脳腫瘍をえらんだことはまことに時宜にかなつたものとして今井会長に心から敬意を表するしだいであります。
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