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I.腫瘍の再発
ここでは特に,"病理学的な"ということわり書きのもとで脳腫瘍における再発の問題点を話すように,という指示を受けていたが,実のところ,これには困りはてていた。いささかかたくなに響くきらいもあるかと思うが,"再発"という言葉をそのままうけとると,腫瘍が一度消失したあとにふたたび発生してきたということになるかと思う。悪性腫瘍にもspontaneous regressionという現象が認められてはいるとしても,少なくとも厳密な意味で悪性の腫瘍細胞を,なお完全に細胞レベルで消失させるということが認められていない現在,どうしても病理学的には再発という表現は腫瘍に関するかぎり今日なお存在しないように思われてくる反面,脳腫瘍にかぎつて,しかし,そうした再発という現象がそれではあるのだろうかという基本的な疑問がまず著者らに立ちふさがってくるからである。
30余年前,なお神経病理学というものが今日ほどには一般病理学から独立する必要もなかつた,良き時代に発行された緒方・三田村の病理解剖学総論の,腫瘍の再発という1項では,腫瘍を"外科的に摘出した後"にふたたび同じ性質の腫瘍がそこに発生してくることを腫瘍の再発と呼び,そのさい考えられる可能性の第一として腫瘍組織がいまだ取り残されていたために,ふたたび腫瘍組織が増大してくる場合,そして第二に,小さな転移巣があり,それが手術後に発育して一種の再発の像を呈する場合,そして上の機転とは異なり,腫瘍発生にいちじるしく傾いている組織がふたたび新らしく腫瘍性変化を起こして,前のとは無関係に発育してきた場合,すなわち,まつたく時期を異にした多発性腫瘍が術後増殖を示した場合をその第三としてあげている。しかし,考えてみると,このいずれの場合にも"実際はまつたく消えたのではなかつたのである"とそこにも記載されているように,腫瘍細胞そのものは依然として残存し,それが単に継続的に増殖を続けたにすぎず,けつして一時的にせよ腫瘍細胞の消滅があつたものとは考えられない。
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