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本書は,弘前大学和田教授の編集になるもので,東大内村名誉教授の序,秋元教授の序説をえて現在第一線で活躍する全国新進学者13名の執筆によるものである。内容はわが国,いや世界の水準で,てんかん研究を集大成したものであり,各執筆者は,それぞれの分野を受けもつて,各自の研究を中心に,てんかん研究の現段階を展望している。わが国のてんかん研究者はもちろん,多少ともこの方面に関心のあるものの,一読の書であることは疑いのないところである。
てんかんは,とおくギリシヤの昔の宗教的な疾病観によつて,たとえば神聖病norbus saccerとよばれていたようなことは論外とし,自然科学の対象とする時代にはいつても,そのときどきの研究方法の進歩に応じて,脳の器質疾患,遺伝疾患,中毒疾患などと考えられてきたことは周知のことである。現代では,Jacksonの脳灰白質の発射discharge of grey matterに端を発して,Lennoxの発作性脳律動異常paroxymal cerebral dysrhythmiaを,その生物学的基磐とする生理学説が有力である。しかし,これによつて,てんかんのすべてが解明されたわけではない。いや,むしろ,これによつて,てんかん概念の規定に混乱が生じつつあるといつてもよい。疾患単位とするか,症状群とするか,てんかんの臨床症状の枠をどこにおくか,真性てんかんと症状てんかんの区別はどこまで可能か‥‥,など検討さるべき問題が多い。本書によつて,これらについて統一的見解をえようとする読者のなかには,いささか失望を感じる入がいるかもしれない。しかしこれは新しく展開の途上にあるてんかん学の現状からするとやむをえないところで,むしろ,これゆえにこそ,若い学者の情熱を駆りたてるといつてもよいのである。およそ臨床医学の研究は,症状の詳細な記載にはじまり,原因の探究に進み,治療に役だつことを目標とすべきものと思われる。しかしこの原因は多くの場合,それほど単純でないことが多い。とくに,てんかんでは,多くの原因群が連鎖をなし,筆者の意見でもこの脳波上にみられる律動異常も,この連鎖の一環にすぎないと思われる。したがつてこの一環を,てんかん研究上の一里塚として,原囚連鎖の一歩進んだ追跡を,本書の執筆者諸氏に期待してやまない。
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