先達余聞
Harvey Williams Cushing
佐野 圭司
1
1東京大学脳神経外科
キーワード:
Cushing
,
Neurosurgery
,
Meningioma
Keyword:
Cushing
,
Neurosurgery
,
Meningioma
pp.32-35
発行日 1981年1月10日
Published Date 1981/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436201256
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1910年の1月か2月の冬のある日の話である.BahimoreのJohns Hopkins Hospitalの外科棟のMonument streetに面した出口を今しもふたりの医師が出てくるところである.午後のおそい目射しがにぶくふたりを照らしている.ひとりは41歳,中肉,中背,きちんとした,凝りたみなりをしている,やや眼尻の下った,しかしするどい目と,意志の強そうな大きな口とあごを持っている.他のひとりは27歳,前者より背が高く,人の好さそうな,しかも若さにあふれた顔をしている.ふたりとも外科医で,回診をすませたばかりのところである.実をいうと若いほうは年上のほうの,この病院でただひとりの助手なのである.ふたりは熱心に患者のことを話している.年上のほうはこれからどこかへ出かけるらしい.皆いほうにあとはどうこうしろと指示を与えて別れかける.2,3歩行って,ふと思い出して,患者のX夫人に「ほうれんそう」を出すようにオーダーしたかと訊く.若いほうは赤面して,実は忘れていましたという.年上のほうはものすごい形相になって,口ぎたなく相手をののしる.若いほうはやや唖然としていたが,あまりの悪口雑言にたまりかねて,自分はこれまであなたの手助けになろうと一所懸命努力してきた,随分と無理な指示にもしたがってきた,けれどもう沢山,すぐにでも荷物をまとめてJohns Hopkins HospitalにもBaltimoreにもおさらばするという.
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