Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.緒言
人体最大の臓器であり,かつ物質代謝の中心をなす肝の異変はただちに多かれ,少なかれ,中枢神経系に影響を与えるということは古くから識者の注目するところであり,また,中枢神経系の病変も肝に対して機能的または器質的に不可分の関係にあることは申すまでもなく,今日肝脳疾患の概念の名のもとには,肝と脳とが同時にまた継時的に相互に影響し合つて障害される種々の疾患が包含されている。しかしながら肝脳疾患という概念の定義は明瞭であるようでいて,実はそれほど一義的なものでないため"主病変が肝と脳にあるという疾患"であるという見解を採用したい。しかしてこれに属するものに,肝・レンズ核変性症(Wilson病),肝脳変性疾患特殊型(猪瀬),Ker—nikterusおよび一般肝疾患時の脳神経症状,すなわち,欧米学派のいわゆる肝性昏睡などがあげられる。なお,肝・レンズ核変性を主徴とするWil—sonの仮性硬化症,幼児に起こる特殊なものであるKernikterusはそれぞれ独立した単一の疾患としてあげられる。また肝脳変性疾患特殊型は1950年猪瀬1)が発表したもので彼によると,臨床的に,1)意識障害の発作が病像の中心をなし,発病が主に40〜50歳代の中年以後であり,病気の進行とともに脳の器質性症候が次第に強くなつて痴呆を呈し,錐体路,錐体外路の神経症状がいちじるしくなり,Kayser-Fleischer角膜輪を欠く。病理学的に脳では軟化巣,海綿状態が皮質,皮質下諸核および髄質に広汎に分布し,原形質のほとんどみられないほど膨化して大きくなつた膠細胞核が主として灰白質に汎発性に分布しているが,Alzheimer I型神経膠やOpalski細胞はみられない。肝ではいわゆる仮性肝硬変を示すがかならずしも肝所見は一様ではないという。これはWil—sonismusと呼ばれるWilson病に似た一群の疾患であり,最近英米の学者よりその臨床ならびに病理解剖学的所見から提唱されている門脈系肝脳疾患に共通することがきわめて多いという。これら3者はいずれも別に記載されるであろうからここではふれないで,Wilson病に関連したいわゆる肝性昏睡脳の主として形態学的変化について言及したい。
Copyright © 1963, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.