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当教室では,悪性腫瘍に対する局所使用の同的で,コロイド状アイソトープの研究をしているが,もしこれを定位的脳破壊用物質として使用した場合,従来のものに比べ何らかの利点を有するかどうかについて,ねこを用いて動物実験を企図した。コロイド状アイソトープの作成は,アニオン交換樹脂として使用されているアンバーラトIRA400に131I,32Pを吸着させた。32P,131Iとも約2.5mcがアンバーライト100mgにほぼ完全に吸着されており,吸着成績は良好といえる。脳定位装置を使用して,ねこの蒼球にコロイド状アイソトープを注入したが,ほぼ限局して注入されている。脳内に注入されたアイソトープの運命については,第1図の如く32P1mcを注入した例では,だいたい3日間で半減するが,それ以後は自然減衰率を保っている。第2図の如く131I100μcを注入した例では,24時間後にほぼ半減するが,それ以後は自然減衰率を保ち,5日後においてもなお30%が局所に残つている。尿中へは術後いずれもごく微量の排泄をみ,131Iでは3日以後急激に減少していつた。手術後の動物の死亡率は,季節にも影響されるが32P,131Iとも1mc以上注入の場合は,死亡率が高く,放射能の影響が考えられる。術後10日間軽度の発熱をみるものが多いが,39℃以上になることは少なく,2週間後にはほぼ正常に帰つている。対照例では発熱をみたものはない。第6図の下の如くアンバーライトのみ注入した対照例では,白血球数はほとんど変化しないか,いくぶん増加している。放射性同位元素注入例の大多数は,術後数日わずかに増加を示ずが,いずれもただちに減少していきほぼ50%近くまで減少する例もあり,約1カ月後には正常に回復しているものが多く認められるが,なお長期にわたる例もある。1カ月後の組織所見において,アンバーライトのみ注入した対照例では,注入部位の周囲に浮腫を起したと考えられるような部分を見るが,神経細胞その他に著明な障害は認められない。第9図32P,1mcおよび第10図131I,100μcを吸着させたものを注入した例では,一定の範囲障害が認められる。
第11図は神経細胞,神経線維などが障害をこうむっている部分の強拡大である。しかしこれらの例も,Komaにおち入ったと思われる例はなく,運動麻痺,歩行障害も術後数日にして消失し,食欲も数日間不振をみるのみで,再び正常になつた。現在までの成績から,注意して放射能の強さ,種類を選べばコロイド状アイソトープは少量の局所注入をもつて,特定量の脳組織を破壊し,脳の定位的破壊物質として,あるいは手術不能の脳腫瘍に対する治療にも使用可能であるとの印象をもつているが今後実験症例をかさね臨床的にも応用できるものとしたいと思う。
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