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はじめに
わが国を含む先進諸国において,脳卒中は三大死因の一つであり,要介護性疾患の首位を占める。脳卒中全体の7~8割は脳梗塞である。脳梗塞は,高頻度かつ重篤な疾患であるにもかかわらず,その急性期治療に対する関心はこれまで低かった。「本疾患に対する根本的治療法がない」という治療的虚無主義(therapeutic nihilism)が,その最大の理由であった。
1980年代以降,脳梗塞の基礎病態研究,診断・治療法は著しく進歩した。また1990年代中期には,遺伝子組み換え型組織プラスミノーゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)を用いた超急性期血栓溶解療法(静注法)の有効性が,大規模ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)やそのメタアナリシス(meta-analysis)によって確立された1)。t-PA静注法以外の急性期治療戦略についても,大規模RCTが次々と実施されている。こうした状況を背景に,これまで臨床経験や専門家のコンセンサスに依存していた急性期治療方針も,より科学的なエビデンスに基づくガイドライン(evidence-based guideline)に書き換えられ始めた2~5)。
わが国でも脳卒中関連5学会による脳卒中治療ガイドラインが作成され,2004年に発表された6)。本ガイドラインでは,「脳梗塞急性期」に関する問題が15項目にわたって解説されている(表1)。このうち,行うように強く勧められる「推奨レベルA」に位置づけられたのは,「2.血栓溶解療法(静脈内投与)」におけるt-PAと「5.抗血小板薬療法」の経口アスピリンのみである。前者は保険未承認であり,後者はわが国の急性期診療現場であまり処方されていない。一方,わが国で頻用されている各種急性期治療薬,治療法の多くは,推奨レベルB,C1,すなわち「推奨に足りる確固たる,あるいは十分な科学的根拠がない」と判定されている。エビデンス・レベルの高い論文の大半が欧米のものであり,一方でわが国の各種治療薬,治療法に関する従来の発表論文のエビデンス・レベルが必ずしも高くないことを反映している。
今回発表された「脳卒中治療ガイドライン2004」の最大の問題点は,臨床現場とガイドラインとの間に前述のごとき乖離,ねじれ現象が存在することに尽きよう。逆に言えば,本ガイドライン作成,発表の最大の意義は,こうした問題点の存在を白日の下に晒したことにあるといえよう。こうした矛盾の止揚,解決こそが,脳卒中急性期診療に携わるわれわれに課せられた最重要課題である。
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