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はじめに
約24時間を周期としたリズム(サーカディアンリズム)は原核生物からヒトに至るまで共通して存在し,内因性のリズム発振機構である生物時計により駆動されている1)。そして,生物時計は24時間とはわずかに異なる内因性周期を光などの外界の同調因子により24時間に同調し,多くの生物機能に重要な役割を与えている。哺乳類においては,行動,摂食,睡眠などが約24時間のサーカディアンリズムを持つだけではなく,図1に示すように多くのホルモンも明確な日内変動を示す2)。この事実は,生物時計が発振するシグナルが,神経内分泌および内分泌系へ伝達されていることを示しているが,そのリズム位相や分泌パターンは各々のホルモン,ペプタイドに特異的であり,そのシグナル伝達メカニズムは複雑であることが予想される。
哺乳類においては,生物時計の中枢は視床下部視交叉上核 (suprachiasmatic nucleus : SCN) にあることがこれまでの多くの研究により証明されている3~5)。哺乳類生物時計の分子機構については,1997年の時計遺伝子の発見6)にはじまり,ここ10年余りに急速に研究が進展している。さらに,「時計遺伝子」のフィードバックループによる24時間振動の発振メカニズムが提唱され,遺伝子,蛋白レベルでの理解が一層進んでいる7~9)。興味深いことに,SCNのみならず,脳の他の部位や肝臓,腎臓などの末梢組織においても,時計遺伝子発現に自律的なサーカディアンリズムがあることが,生物発光による時計遺伝子発現の連続測定により明らかになった10, 11)。すなわち,これらの末梢組織では,SCNからの連絡がなくても,安定したリズムが数十日にわたり持続することから,自律振動可能な時計「末梢時計」がそれぞれの組織に存在することが明らかである。しかし,SCNを破壊した動物では,末梢時計の位相が一定していない12, 13)ことから,中枢時計であるSCNが何らかの同調シグナルを末梢へ伝達して末梢時計のリズム位相を同調させていると考えられる(図2)。
神経内分泌細胞や下垂体細胞および末梢の内分泌組織においても,時計遺伝子,時計制御遺伝子 (clock-controlled genes : CCG) が発現しており14~16),それぞれ末梢時計を持っていると想定される。したがって,神経内分泌およびホルモンリズムは,従来のホルモンフィードバック機構だけではなく,中枢時計SCNからの調節も受けており,その結果,局所に適した神経内分泌リズムが生まれているものと考えられる。このSCN由来のシグナルによる神経内分泌細胞の調節が液性であるか神経性であるか,あるいは自律神経系を介した間接的な作用かは未だ不明である。また,SCNにより位相調節された神経内分泌リズムは,さらに内分泌ホルモン系あるいは自律神経系を介して,末梢組織へと体内に広く伝達されることとなる。
ここでは,まず,時計遺伝子発振の分子機構について概説し,中枢時計であるSCN からの神経内分泌システムへの想定される作用機序を述べ,神経内分泌および内分泌系における生体リズムのモデルについても言及する。
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