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はじめに
1950年代に臨床応用された脳低温療法(低体温療法)は,体温を30℃以下に下げるものであり,開胸手術や脳神経外科手術において脳を保護する目的で導入された。重症頭部外傷や脳卒中の治療にも一部応用されたが,低体温自体による数々の重篤な副作用により,脳低温療法は次第に施行されなくなり忘れられた存在であった。しかし1987年,Bustoら8)が動物実験で軽度脳低温療法(mild hypothermia)を試み,脳温を3~4℃低下させるだけで脳虚血に対して驚くほどの脳保護作用が生じることが判明したことで,再び脳低温療法とくにmild hypothermiaが注目され1990年代には臨床応用が再開された。新しい脳低温療法について各施設から有効との報告が相次ぎ,その成果はやや過度に誇張されて一部マスコミによって報道された。ところが,2001年,Cliftonら13)が大規模多施設間臨床試験で,脳低温療法が重症頭部外傷の神経学的予後に効果がないとNew Engl J Med誌に発表し,過熱した脳低温療法への期待は水を差された(“Clifton shock”)。しかし一方で,この悲観的報告にもかかわらず,その後も脳低温療法についての研究,発表は持続された。最近では本法の脳保護におけるメリット,デメリットの両面から地道に再検討され,適応対象や,therapeutic time window,rewarmingなどの適応面での問題を中心とした厳密な検討により,本法は成熟した治療法として評価されつつあると言えよう。
21世紀に入った現在でも,重症頭部外傷や脳卒中などによる脳損傷に対しての画期的な脳の保護方法はなお確立されておらず,その数少ない方法の1つである本法の活用を模索することは臨床に大いに寄与すると考えられる。このような現状を踏まえ,本稿では最近の本法の見地をレビューするとともに,実際の臨床の現場でいかに有効に活用できるかについて具体的に考察していきたいと考える。なお,本稿ではとくに断らない限り,脳低温療法とは脳温が32~34℃のmild hypothermiaによる治療と定義させていただく。
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