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研究と報告
三島由紀夫と悲劇:同一性拡散と既定された未来—「豊饒の海」に至る作品構成をめぐって
Yukio Mishima and Tragedy-Identity Diffusion and Predestination
岩井 一正
1
Kazumasa Iwai
1
1東京女子医大精神医学教室
1Department of Neuropsychiatry, Tokyo Women's Medical College
キーワード:
Yukio MISHIMA
,
Tragedy
,
Identity Diffusion
,
Predestination
,
Intra festum
Keyword:
Yukio MISHIMA
,
Tragedy
,
Identity Diffusion
,
Predestination
,
Intra festum
pp.471-478
発行日 1992年5月15日
Published Date 1992/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903242
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【抄録】 三島由紀夫の小説の構造から,彼の自我同一性障害と未来の既定という時間障害とを論じた。初期の代表作である「仮面の告白」から,最後の「豊饒の海」に至る主要作品の構成は,作者の分身たる主人公が二分四分と分散する発展方向に特徴づけられる。主人公の多重身化と心情喪失とは,三島の同一性拡散の反映である。また作品の悲劇的構成の底流をなす既定された未来観は,現実の生成性を見失った彼の認識の時間性であった。各巻ごとに悲劇的に完結し,輪廻転生を軸に変転しながら,最後には虚無へと空化する「豊饒の海」の構成に,三島の生の総決算を見ることができる。同一性拡散を統べる意志は,個人性を超越した中性型へと純化され,悲劇という演劇的虚構の論理に基づく行動化を導いた。実生活における三島の行為者的側面は,この意志の傀儡であった。悲劇的に既定された未来と一瞬に生きる祭の時間を対比し,彼における生と死のあり方についても論じた。
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