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分裂病の原因解明は,精神医学における今世紀最大の研究課題の1つであった。しかし,新しいミレニアムを迎えた今もなお不明である。遺伝子解析により分裂病の異種性が明らかにされ,健常者群との比較で分裂病群の原因に迫る研究方法には限界が見えてきた。分裂病が明確なフェノタイプでないとすれば,分裂病群に単一の原因を求めるのは困難であろう。むしろ,分裂病を規定する症状群を標的に,その発症脆弱性を解明するほうがより現実的であり,少なくとも臨床に還元できる研究成果を期待できるのではなかろうか。そこで,この発症脆弱性に生物・心理社会的因子が働いて特有の分裂病症状が発現するプロセスに焦点をあて,発病規定因子をテーマに取り上げた。
そうした成因論とは別に,分裂病概念はこの四半世紀の間にかなり理解が深まって,その輪郭もしだいに見えてきた。その是非は別として,WHOや米国精神医学会(APA)では操作的な診断基準が定着し,分裂病は主に特有の症状群で診断されるようになった。精神病理学では,症状群の背後にある超現象領域に認知障害や情報処理障害を想定し,その基礎に脳障害を推定する見方が広がっている。また,家族研究と長期予後研究で明らかになった多くの成果は,見事にCiompiの長期展開モデルに集約された。さらに,その鍵概念となった発症脆弱性(Zubin)をめぐって,慢性ストレスが脆弱性を形成するという新しい作業仮説のもとに生物学的な研究が進んでいる。Ciompiが目指した生物学的アプローチと心理社会的アプローチの統合が,しだいに浸透しているようである。そうした動向は治療面にもみられ,例えば米国精神医学会の「分裂病の治療ガイドライン」では薬物療法と心理社会的な介入を取り入れた包括的な治療計画comprehensive treatment planに力点が置かれ,患者・家族のための分裂病概念も登場している。
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