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はじめに
過去30年に及ぶ生物学的うつ病研究は,モノアミン枯渇薬レゼルピンによるうつ状態の誘発,抗うつ薬のモノアミン再取り込み阻害作用やモノアミン受容体脱感作効果,モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬の抗うつ効果などを根拠とする,モノアミン神経系の異常に着目した研究が主流であった。この研究の流れはモノアミン神経系の異常を中心としたうつ病の病態の追求が主眼であり,そこに大きく欠落していたのは,うつ病がリズム異常を背景とした周期性のみならず,心理・社会的ストレスによって誘発されるという発病脆弱性(後に「ストレス脆弱性」として詳述する)を有するという遺伝的素因の視点であった。事実,これまでの抗うつ薬の薬理学的研究の多くは正常動物を対象として行われ,うつ病の動物モデルの開発もその多くが正常動物を用いたものであった。約25年前に遺伝的素因を考慮した,「うつ病患者は生来的にモノアミンの合成・遊離が少なく,代償的に後シナプス膜モノアミン受容体の感受性が増大しており,この状態でストレスが負荷されるとモノアミン遊離が促進し,後シナプス膜モノアミン受容体は過剰反応して破綻を来し,うつ状態に陥る」とするモノアミン受容体過感受性仮説が提出されたが,当時はストレス研究に見るべきものが少なく,残念ながら今日まで研究の発展をみていない。
モノアミン神経系を中心とした研究の流れに遅れて,ストレスによるうつ病の誘発,うつ病における視床下部—下垂体—副腎(HPA)系の機能異常を根拠とする,HPA系を中心としたストレス脆弱性仮説が提唱され,ストレス研究の発展に伴い多くの研究成果が蓄積されつつある。最近ではモノアミン神経系やHPA系の異常から,よりダイナミックな神経可塑性の異常にまで研究が広がりを見せつつあり,今後の研究の発展が大いに楽しみな状況となっている。
本稿ではうつ病の発病規定因子としてのストレス脆弱性を中心に,「脳内ストレス適応反応,その破綻状態と考えられるうつ状態」,「ストレス脆弱性を有する動物モデル」という流れで我々の研究を紹介するとともに,広くうつ病研究の現況を概説したい。
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