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はじめに
高齢者の絶対数の増大に伴い,老年期うつ病の診療に携わる機会が非常に多くなった。地域に住む高齢者のうつ状態の有病率は,その疫学的研究に使用された評価方法の違いから差が大きいが,老年期にうつ病有病率が特に高いというわけではないようである6)。しかし,老年期うつ病は,診断上は痴呆性疾患との鑑別の観点から,そうして治療上は難治性で予後もよくない症例を多く含むことから,うつ病の中でも特別な問題を抱えており,外来にて長期に追跡する必要のある症例が多い。すなわち,前者についてはうつ状態を長年追跡するうちに次第に痴呆症状が前景に出ることもあるし,もともとの痴呆性疾患がその初期にうつ症状を呈する場合もあることである。後者については,老年期うつ病は他の身体的疾患との合併で出現することが多く,またdisabilityを進行させるため,生活の質を著しく落としやすい。さらにうつ状態自体が他の身体疾患の発症率を高め,その生命予後を悪くすることもあることである8)。このように老年期うつ病は心身の両面にかかわることが多いので,高齢者の精神的健康だけでなく,身体的健康を保つためにも,どのような要因がうつ状態を発症しやすくするかを明らかにし,うつ病発症の予防に努める必要がある。
うつ病発症には,発症の年齢にかかわらず,遺伝的要因,身体的要因(特に,脳器質要因)および心理・環境的要因がかかわる。しかし,老年期うつ病では,若年発症のうつ病に比べ,遺伝的要因の関与が低いとされている。50歳以前に初発したうつ病患者の近親者の発症危険率は16〜20%であるのに比し,50歳以降に発症した患者の場合8〜10%と報告されている。ただし,高齢になると親,同胞の病歴を正確にとりがたいこと,および遺伝的要因が脳病変などを通じて間接的に影響している可能性もあるので,その要因を無視はできない5,6,8)。高齢になると脳の老化をはじめ身体的変化が生じるため,身体的要因に一次的原因が求められる場合が増してくる。しかし,脳の器質的な障害が主因であるとしても,心理・環境的要因の関与も常に視野に入れておく必要がある。また,その発症経過から心因がはっきりしているようであっても,その背景に脳の機能低下が重要な要因になっていることも多い。
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