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Ⅰ.序論
精神分裂病の発病に性愛的経験がからむことが多いということは,古くから知られているが,われわれも日常そのような症例に出会うことが少なくない。ここでは自我同一性という精神分析学の概念によつてこの問題に力動的考察を行ないたいと思う。Freud1)がかれの汎性論的な理論から精神分裂病を"対象愛を完全に放棄して,幼児のみがもつ自体性欲の状態にまで帰つたものである"と述べたり,また著明なSchreberの症例1)については同性愛リビドーの爆発,すなわちこのリビドー刺激に対する葛藤がかれの妄想症状をひき起こす原因になつたとみたことはよく知られている。このようなみかたはかならずしもすべての臨床医の賛同するところとはならなかつたが,それでもBleuler2),Rosen3),Katan4),らは精神分裂病患者においては性同一性の混乱,すなわち男(女)性としての自己についての不確実性を示すことが多いと指摘しており,とくにKatanなどのように精神分裂病は両性的葛藤により生じ,その両性的葛藤は結局,異性的要素を放棄する状態に導くとしている人もいる。またSullivan5)も精神分裂病発病の環境は性的衝動の未分離の要素をいかに昇華するかに関係し,その分離の失敗に遡ることができるとして,分裂病者の性の問題を重視している。
自我心理学の発展に伴い,精神分析に社会的見地を導入したErikson6)は自我同一性の感覚The sense of ego identityなる概念を提出して自我のもつ特殊な状態を説明し,精神分裂病発病の危機について説明した。またSearles7)は精神分裂病に関して,もし注意深く性的要素を,その患者の生活史のいろいろの面においてみると,性的要因がいかに重要な要素になつていることがあるかがわかるとしている。
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