特集 結核問題の展望
発病ということについて
千葉 保之
1,2
1東鉄保健管理所
2東京鉄道病院結核科
pp.21-24
発行日 1954年5月10日
Published Date 1954/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200730
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発病という言葉の定義は,なかなかむずかしい.常識ではまず健康が障害されたときをもつて,それをあらわしている.熱が出たり痛みが出たときがそうである.それもこういう症状が感染後まもなく現れてくる急性傳染病のときは問題もかんたんである.ところが慢性傳染病になつてくるとその症状の発現は感染後,長年月経つてはじめておこることが多い.しかもその時は体内の病変がすでに相当,進行している時である.したがつて症状発現前の診断が必要となつてくる.結核ではそのためには,とくにX線検査を利用している.このようにして発病という言葉のなかには,いままでのように健康感の異状をもつてみていた感覚的発病と,X線検査によるX線学的発病とが含まれているということになる.ともに臨床的に疾病として取り扱わねばならない段階のもので,これ以前の確認できない病変は,疾病以前のものと考えて差し支えないであろう.そういう意味では自ら感染と発病との間に量から質への転換的過程を想定することができる.
事実,感染したもの必ずしもすべて発病するとは限らない.はしか,ペスト,梅毒などは100%近く発病するとされているが,腸チフスなどでは5〜10%と推定されている.結核では環境によつてちがうが,一般の場合を平均すると20%近くという数字が出されている.しかし,この数字は自然のままの平均であつて,BCGの予防接種や結核管理の適否がこれに影響を及ぼすことは,いうまでもない.
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