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統合失調症の病因・病態は未だ十分に解明されておらず,診断法や治療法の開発も道半ばである。病因・病態解明のために,遺伝子,分子,細胞,システム,そして行動のレベルまで,さまざまな方法論による研究が行われている。臨床症状だけでなく,認知機能障害が機能的転帰に及ぼす影響の大きさが注目され,認知機能障害に焦点化した研究が活発に行われている。診断分類や診断基準については継続して検討されており,バイオマーカーの開発を目指した研究も盛んである。臨床的リカバリーを目標として,新しい治療薬の開発,至適な薬物療法の検討,心理社会的アプローチの効果研究なども行われている。また近年は,研究テーマを研究者が一方的に選択するのではなく,当事者や家族による意見を取り入れて優先度を決定する,いわゆる「臨床研究の民主化」が目指すべき方向性として注目され,日本でもそのような動きが始まっている。臨床研究の民主化の流れとも相まって,パーソナルリカバリーを取り扱う研究も増えつつある。さらに,統合失調症において始まった「当事者研究」はその対象範囲を広げて展開されつつある。
日本から世界に発信される精神疾患の研究論文の中で,統合失調症に関するものは,うつ病,認知症に次いで3番目に多い。本特集では,継続的に研究成果を発表している研究者に,ご自身の新しい研究の紹介を中心として,その分野における研究の背景や意義,今後の展望などについて,臨床に専念している読者にもわかりやすくまとめていただくこととした。遺伝子,iPS細胞,死後脳,カルボニルストレス,神経生理,脳画像など先端分野の研究に加えて,治療抵抗性統合失調症,薬物療法ガイドラインの普及・啓発,身体的健康の支援や心理社会的支援に関する研究も含め,なるべく幅広い研究領域を網羅するようにした。
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