特集 「難治例」の臨床—治療に難渋する時の診断,治療,そして予防
特集にあたって
鈴木 道雄
1
1富山大学
pp.1365
発行日 2024年11月15日
Published Date 2024/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405207412
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精神科の診療において多くの患者さんと接すると,いわゆるファーストラインの治療によって,さしたる苦労もなく速やかに改善していく人は少なくない。しかしながら,標準的な治療が奏効しない,あるいは薬物療法に対する不耐性などのために治療が十分に行えないなど,期待するような治療効果が得られないこともしばしば経験する。時には,利用可能なあらゆる治療リソースを注ぎ込んでも改善せず,精神科医療の限界を感じるような症例に遭遇することもある。いわゆる「難治例」あるいは「治療抵抗性症例」の背景には,患者側の要因として,疾患自体の病態だけでなく,種々の併存症,あるいは発達特性やパーソナリティ傾向など診断には至らない程度の併存する特徴,家族関係,トラウマ体験など多くのものの関与がありうるだろう。また,その「難治性」が治療者側の要因に由来することも当然ありうる。さまざまな要因がもたらす「難治性」は,家庭生活や社会生活に長期的悪影響を及ぼし,時に長期入院の原因となる。「難治例」は診断カテゴリーにかかわらず経験されるが,なかには診断カテゴリー自体が「難治」という印象を与えるものもある。いずれにしても私たちは,治療に難渋した時に,その患者さんに対して,少しでも良い治療効果をもたらすために何を為すべきかという,困難かつ重大な選択を迫られる。
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